「おや、何故クラークがおるのじゃ?」
お菓子を作るって事で、他のお部屋にいるって言う料理人さんたちをメイドさんに呼んで来てもらったんだ。
そしたらね、そこの東門の外にあるロルフさんちの料理長、クラーク・ノートンさんがいたもんだからロルフさんはびっくり。
何でここにいるの? って聞いたもんだから、ノートンさんはその理由を教えてくれたんだ。
「当初はここで働く者だけを送り出す予定だったのですが、魔道具の試運転には旦那様もいらっしゃるのに、もしそこで調理したものを召し上がりたいとおっしゃったらどうするのです! とストールさんに呼び出されまして」
「なるほど、ライラが気をまわしたのじゃな」
ストールさんはね、今日は僕が一緒にいるからきっと魔道コンロを動かす時にロルフさんが何か食べたいって言うだろうなぁって思ったんだって。
でも、このお家で働く料理人さんたちはお勉強に来るメイドさんや執事さんたちのご飯を作る人たちだから、いつもロルフさんにご飯を作ってる人たちほどお料理が上手じゃないでしょ?
だからノートンさんも一緒に来ないとダメって言ったんだってさ。
「それにですね、ここの調理場を仕切る予定のものが少々問題でして、それもあってストールさんは俺を呼んだようなのです」
「問題があるじゃと? そんなものをルディーン君の館に寄こしたと申すのか?」
ノートンさんのお話を聞いて、ロルフさんは怒っちゃったみたいで、すっごく怖いお顔になっちゃったんだよね。
それを見たノートンさんは、慌ててそうじゃないよって。
「いえ、人間的に問題がある訳ではないのです。旦那様もご存じでしょう? ここを任せる事になったのはカテリナ・ジェンクスなんですよ」
「カテリナ? おお、あの娘か。彼女の腕ならばこの館の調理場を任せるのに何の問題もないじゃろうが……しかし、よくストールが承知したのぉ」
「それなのですが、ストールさんがメイド見習いたちの指導のため、ここに移動する事になりましたでしょう? ですからカテリナも移動させて、こちらで一緒に指導をするつもりみたいなんですよ」
ジェンクスさんて料理人さんはね、ロルフさんちでストールさんにいろんな事を教えてもらってたんだって。
でも、ストールさんが僕んちに来ることになっちゃったでしょ?
だからお料理は上手だから僕んちの調理場で働く事にしようって、ジェンクスさんも一緒に一緒に来ることになったんだってさ。
「なるほどのぉ。確かにここに移動させれば、引き続き指導をする事ができるか」
「はい。カテリナもまた、これからもストールさんからの指導を受けたいようですから。二人の意見の一致を見た事で、こちらに移動する事が決まったという訳です」
ノートンさんのお話を聞いて、そうかそうかって頷くロルフさん。
でもね、今まで横で聞いてたけどジェンクスさんがどんな人なのか、僕、全然解んなかったんだよね。
だから聞いてみる事にしたんだ。
「ねぇ、ノートンさん。ジェンクスさんってどんな人なの?」
「いい子ですよ。ただ少々辺鄙なところ出身のため、少々しゃべり方がユニークでね」
ジェンクスさんはね、近くにおっきな街が全然ない、本当に田舎の方に住んでた人なんだって。
じゃあ何でそんな人がここにいるのかって言うとね、ロルフさんのお孫さんがお仕事でその田舎に行った時に家族でお店さんをやってたジェンクスさんのお料理を食べたそうなんだ。
そしたらすっごくおいしかったもんだから、こっちで働かない? って連れてきちゃったんだってさ。
「この辺りも辺境ではあるけど、中央とのつながりが深いから言葉はほとんど変わらないんだ。しかしカテリナの住んでいたところは他の地域とはつながりが薄い所だったようで、こちらに連れてこられた当時はなまりが酷すぎてね」
「そうなの?」
「ああ。今はストールさんの指導でかなり改善はしたけど、それでもまだまだ言葉遣いがおかしくてね。腕はいいのに、そのせいでお客様のお料理を担当させることができないんだよ」
ロルフさんちだとね、出したお料理が美味しかったからって、来たお客さんがノートンさんを呼んでありがとうって言う事があるそうなんだよね。
ジェンクスさんもね、お料理はすっごく上手だから、もしお客さんに出したらきっとありがとうって言いたいから呼んでって言われるんじゃないかなぁってノートンさんは言うんだ。
「でもカテリナのしゃべり方では、流石にお客様の前に出すわけにはいかなくてな。でもその料理の腕は一流だから、ストールさんも何とか言葉の矯正をしようと指導してるって訳だ」
「そっか。お話がうまくできるようになれば、お客さんにお料理を出せるようになるもんね」
「ああ、そういう事だ」
なにせ料理はおいしく作れるんだからなって、ノートンさんは笑ったんだ。
「ところで、そのジェンクスさんはどこにいるの?」
僕んちに来ることになってるって事は、今日もいるって事だよね?
だから僕、ノートンさんにジェンクスさんはどこにいるの? って聞いてみたんだよ。
そしたらね、
「ああそう言えば、ここはルディーン君の館なのだから、ちゃんと紹介をしなければいけないんだったな」
ノートンさんはそう言って、ジェンクスさんを呼びに行ってくれたんだ。
「えっと、おらが……じゃなかった。私がこの厨房を仕切ら……預からせていただくことになった、カテリナ・ジェンクスでございますです」
「こんにちわ! ルディーン・カールフェルトです」
ジェンクスさんはね、オレンジっぽい茶髪を編み込んでまとめてる、おっきな目が特徴的なお姉さん。
背はそんなに高くないし、体もやせ型だからおっきなフライパンでお料理とか作れるのかなぁ? なんて思ったんだけど、ノートンさんが言うには結構力持ちなんだって。
「一見するとそうは思えないかもしれないが、力も持久力もあるから大人数の料理も任せることができるんだぞ」
「村で働いてた頃は、お昼時になると腹……お腹をすかせた人たちが店にいっぱい来てくれてたから、自然にそうなったなのです」
ジェンクスさんが前に住んでた村はね、他に食べるお店が無かったんだって。
だから畑仕事とかしてお腹を空かせた人たちが、ご飯の時間になるとみんな来たんだって。
そんなとこでずっとお料理をしてたもんだから、ほっそいのにおっきなフライパンを使ってお料理する事もできるし、それになんとマヨネーズ、じゃなかった、卵のビネガーソースまで作れるそうなんだよね。
「俺もまさかビネガーソースが作れるほど持久力があるとは思わなかったから、初めて作らせた時は本当に驚いたよ」
「えへへっ、そんなに褒められると、おら、恥ずかしい……なのですよ」
マヨネーズって、混ぜた油が卵やお酢とちゃんと混ざるように、ずっと早くかき混ぜ続けないとダメでしょ?
だから筋肉ムキムキのノートンさんでも、作るとへとへとになっちゃうんだって。
なのにジェンクスさんはこんなに細いのに作れちゃうなんて、ほんとにすごいよね。
「ジェンクスさん、力持ちなんだね。すごいや」
「いやぁ、力はノートンさんほど強く無いよ。ただ、手首が早く動かせるだけってだけなのですよ」
ジェンクスさんが言うにはね、ノートンさんは肘を回して力いっぱいかき混ぜてるけど、自分は手首だけを回してかき混ぜてるんだよって教えてくれたんだ。
「この方法だったらそんなに力もいらねぇし、段々粘りが出てきたらノートンさんみたいに肘でかき混ぜるようにすればいいだ。そしたらおらでも……」
「おいおい、カテリナ。言葉がまた、元に戻ってるぞ」
「あっ! しまった」
ジェンクスさん、お話に夢中になってくるとついついしゃべり方が元に戻っちゃうんだって。
だからいっつもストールさんに叱られちゃうんだって、僕に笑いながら教えてくれたんだよ。
「僕、ジェンクスさんのしゃべり方、好きだけどなぁ」
「みんながそうだといいんだけども、ストールさんが言うには怒る人もいるそうなのですよ」
僕は村に住んでるからいいけど、ロルフさんのお客さんの中には帝都とかの、他のおっきな街から来る偉い人もいるんだって。
だからちゃんとお話しできるように、ストールさんに怒られながら頑張ってるそうなんだよ。
「それと、お……私はこのお屋敷の使用人みたいなもんだから、主人であるルディーン様はジェンクスでなくてカテリナと呼んでもらえばいいのですよ」
「うん、わかった。じゃあカテリナさんって呼ぶね。だからね、僕の事もルディーン様じゃなくって、ルディーン君でいいよ」
カテリナさんはね、ここで働くんだから名前で呼んでって言うんだよ。
だから僕も、様ってつけないでって頼んだんだ。
でもね、カテリナさんはそんなのダメって。
「だども、ルディーン様はこのお屋敷のご主人様だし」
「大丈夫だよ。ノートンさんだって僕の事、ルディーン君って呼んでるもん」
「そうして欲しいって言われてるしな。ただまぁ、ストールさんだけは頑なに様付けだけどな」
ストールさん、最初はルディーン様って言うのはお外でだけって言ってたのに、今はどこでもいうもんね。
でも僕ももう慣れちゃったもんだから、ストールさんだけは様ってつけてもいいやって思ってるんだ。
「だからカテリナさんも、僕の事はルディーン君って呼んでね」
「解りました。ご主人様がそう言う……仰るならこれからはそうするのです。
カテリナさんはそう言うとね、これからよろしくって言いながら頭をペコって下げたんだ。
お菓子を作るところまで行かなかった……。
さて、カテリナさんの登場で、イーノックカウの館に住む新キャラ登場はこれでひと段落。
もしかしたら後々名前付きのメイドさんとかが出てくるかもしれないけど、今の所ルディーン君と大きく絡むキャラはこれで打ち止めです。
イーノックカウの館でのお話は、ストールさんやお姉さんズ、それにカテリナさんとのエピソードで展開する事になる事でしょう。
とは言っても、別に大事件が起こったりはしないんですけどね、この物語の場合w